誰もが健康で医療費のかからない未来へ。

70歳以上の高齢者の方が通院した場合、高額療養費制度※を活用し負担限度額を一定の上限にしても、月々数万円の医療費を支払わなければなりません。また、寝たきりや認知症になってしまい、老人ホームやヘルパーの補助が必要になった場合、数百万円の負担が個人にのし掛かかってきます。

こうした負担を少しでも減らすために、必要なのは健康な身体作り。バランスのとれた食事や、日々適度に身体を動かすことが大切だといわれています。なかでも老若男女を問わず、長く続けられ、健康に良いとされている運動が散歩です。

その散歩には、ただ歩くだけではなく、効果を最大限に上げるポイントがあることを、ご存知ですか?

東京都健康長寿医療センター研究所の老化制御研究チームの青栁幸利(あおやぎ ゆきとし)先生は、15年以上の月日をかけて歩数や時間、歩く速度など、健康づくりの効果を最大限に引き上げるための研究をしています。その中で編み出した“中之条メソッド”という健康法をもとに、青栁先生とトーンモバイルが目指す未来について、お伺いしてきました。

※高額療養費制度…医療費の自己負担が高額になった場合、一定の自己負担限度額を超えた分が、あとで払い戻される制度。

長寿・健康の秘密「中之条メソッド」って何?

——「奇跡の研究」と称され、世界中で注目を浴びている中之条メソッドとはどういった研究なのか、改めて教えてください。

2000年より群馬県中之条町の65歳以上の高齢者5000人に、加速度センサー付きの身体活動量計をつけたまま生活してもらい、24時間365日の生活行動を15年以上に渡ってデータ収集し、分析してきました。

その結果、1日に8000歩・20分以上の中強度の運動が行われる散歩を毎日続ければ、高血圧や糖尿病、さらに癌や認知症といった、高齢者がなりがちな病気の予防に効果があることがわかったのです。

——なぜ、1日に8000歩・20分の中強度の散歩が、多くの病気に対して効果的なのでしょうか?

身体の老化が引き起こす病気の多くは、筋肉の衰えからくる体温の低下に起因しています。

人には、生まれ持った遺伝子によって25時間周期の体温リズムがあります。この25時間周期のリズムは太陽の光などを浴びることで、24時間周期へとリセットされるのですが、老化によって、この体温リズムが崩れやすくなります。

原因は、エネルギーを使って熱を発する筋力が衰え、体温が上がらなくなること。そうして体温が低くなることで、1日の体温リズムの振れ幅が狭まってきてしまい、およそ体温リズムの差が半分ほどになってしまうと、病気を発症しやすくなるといわれています。

老化だけでなく、鬱や認知症の方もそうなのですが、「リズムが前にズレる」「振幅のメリハリが無くなる」「全体の平均体温が下がる」この3つの条件が揃うといろいろな病気になりやすくなるのです。

よく年を取ると“朝早くに目が覚める”と言いますよね。これは、理想の体温リズムが崩れ、前倒しになっていった結果、朝早く目が覚めるようになるのです。

——朝早くに目が覚めるなどは、よく聞く話ですよね。そもそも、私たちの体内では、老化によってどのような変化が起こっているのでしょうか?

20 代と80代を比べると筋肉の量は半分に減るといわれています。例えば、外側広筋という太ももの筋肉を顕微鏡でみると1本1本細い何ミクロンという筋線維が50万本束になってひとつの筋肉を構成しています。その50万本が、老化現象によって25万本に減ってしまうのです。

——なぜ老化で筋肉が少なくなっていくのでしょうか?

実は私たちの身体の細胞は、常に「死ぬか、衰えるか」という選択をしながら生きているんですね。

具体的に説明すると、私たちの身体の中では酸素を消費すると必ず活性酸素ができます。その活性酸素は細菌やウィルスもやっつけますが、それと同時に、正常な細胞の遺伝子まで傷つけたりしてしまうことがあります。このとききちんと細胞が修復されれば問題ありませんが、活性酸素によって傷ついた細胞は癌化してしまう可能性があるのです。

傷ついた細胞を癌化させないためにも、細胞は自殺(アポトーシス)を選べるんですね。当然、細胞のひとつひとつが自殺するということは筋線維の数が減ることにつながります。50万本もあった筋線維は、悪い遺伝子を持った細胞を残さないために死んでいくので年とともに少なくなっていくというわけです。

このように私たちの体内では日々「生き残るために、細胞の自殺を選びますか」「このまま癌が進行するのを選びますか」という、究極の選択が天秤にかけられているんですね。

いわば、老化は“病気にならないための防衛策”のようなものでもあるのですが、それが進んでしまうから足腰が立たなくなるなど、目に見える老化現象が起こってしまうのです。

——なるほど。だから老化を防ぐために、つまり傷ついた細胞をきちんと修復するために適度な運動が必要になってくるわけですね。

はい。老化を防ぐために、バランスが一番取りやすい運動が、1日8000歩・20分の中強度の運動なんですね。

年をとっても筋肉をできるだけ温存し、体温が高い状態を維持できることが大切です。そうすると、免疫力も上がって病気になりにくい、健康な身体を保つことができます。この良い循環を作っていけるかどうかが、老化を防ぐための大きなポイントになってくるのです。

——中強度の運動というのは、具体的にどういった歩き方なのでしょうか?

人それぞれの体力(最大酸素摂取量)の半分に相当する運動が、中強度の運動になります。

体温が1度上がると60%免疫機能が上がり、逆に1度下がると30%〜40%免疫機能が低下することがわかっています。

感覚に頼るとしたら「会話がなんとかできる」ぐらいの速度で歩くレベルが、中強度の散歩になります。歩きながら会話ができないほどだと強すぎ、歌が歌えるほどだと弱すぎです。心拍数を測るより、目安としてこういった感覚を身につけるほうが、毎日の生活にも取り入れやすいでしょう。

——「8000歩・20分の中強度」以上の運動をすれば、さらに効果が得られるのでは?

いいえ、運動しすぎると、健康維持・病気予防の観点では逆効果になってしまいます。

トライアスロンや筋肉を鍛え上げるなど、身体に過度の負担がかかる激しい運動は、ストレスや身体の故障に繋がるだけでなく、活性酸素も大量に発生します。スポーツ選手の平均寿命が短いといわれているのも、こうしたことが原因のひとつです。

大量に発生した活性酸素が血管の内壁を傷つけ、それを修復するのに血小板が集まってくる。いろいろなものが集まることで血管の内部に凸凹ができ、動脈硬化が起こって血液が流れにくくなります。こういった状態ができてしまうのが、過度な運動の弊害です。

中強度というのはとても曖昧に聞こえるかもしれませんが、身体を健康に保つためにちょうど良い運動なのです。

中之条メソッドがトーンモバイルと共に目指す「誰もが健康で、医療費がかからない世界」

——スマホは健康を維持するためにどういった役割を果たすのでしょうか?

スマホは今や、最もポピュラーで“誰しもが持ち歩くツール”になっています。つまり、スマホは日頃の生活行動を客観的に監視することができる。この特性を活かして健康増進に繋がる機能ができないかと、トーンモバイルさんと一緒に研究することになりました。

——先生が監修されているトーンモバイルのライフログ機能について、改めて教えてください。

トーンモバイルのライフログ機能では、活動量、歩数、カロリーの3種類を計測し、グラフ化して見ることができます。また、トーンモバイルの見守り機能、TONEファミリーを使えば、あらかじめ登録してある家族の計測結果もみることができ、家族同士で健康を見守ることも可能です。

またこれはTSUTAYAのスマホならではの機能ですが、8000歩・20分の中強度の運動をすればTポイントが貯まるというサービスも、利用者にとってはモチベーションになるでしょう。

——開発にあたり、難しかった点などはありましたか?

ライフログ機能は今でも研究中なのですが、スマホをひとり一台所有するようになったとはいえ、24時間365日携帯するわけではありません。机の上に置いてしまうなど、手放している時間があるのも事実なので、そこを改善する方法を見出したいと考えています。1日の中で1時間だけフィットネスクラブに行くという行為は、生活習慣ではありません。例えば、日々の中でトイレに何回行くかということも含めて、生活習慣になるので。そういった生活習慣を全て記録する為にも、常に身につけられるスマホを開発していけたら良いですね。

——スマホが私たちの健康管理をしてくれるようになるわけですね。

はい。このプロジェクトを通し、最終的に私たちが目指したいのは、ユーザーの健康な身体作りをサポートするとともに医療費を削減することです。例えば、高齢者が糖尿病になった場合、自分では年間3万円の負担ですが、9割負担をする自治体では27万円の医療費になります。

個人負担で年間3万円と聞くと大したことないように聞こえますが、その残りの9割は自治体が負担するので、日本全体でみるとすさまじいお金がかかっています。

ーーたしかに平成28年度の75歳以上の医療費は14兆円にも及んでいるそうです。すごい金額ですね。

病気になりにくいということは、個人がハッピーになることです。

しかし、個人がハッピーになることはもちろんですが、その個人を支える自治体や国がハッピーにならなければ、サービスは返ってきません。

病気になりにくい、医者にあまりかからない、薬も減らせるという状況が続き、医療費を削減できれば、他の予算にお金を回すことができます。減らすべきところを減らして、使うべきところに使うという予算の再配分ができれば、日本はもっと幸せな国になるはずだと思うのです。

高齢者のうち、新たに要支援・要介護の認定を受ける方は毎年約5%ずつ増えていますが、その5%に相当する人が今よりも1日に2000歩増やすことができれば、残りの95%の人が行動変容を起こさなくても、自治体負担分の医療費は一人当たり12600円浮く計算ができます。この5%の人が2000歩増やすシミュレーションを成人全体に当てはめてざっと計算すると1兆円も違ってくるのですよ。

ーー歩くことで医療費を減らせれば、個人では娯楽費などに使うことで経済を活性化させることができ、国や自治体では他の保障やサービスにお金を回すことができ、日本全体を潤すことができるということですね!素晴らしいです。

「社会問題に立ち向かう」を標榜するトーンモバイルとの今後の「ライフログ」の新機能開発に期待しています!

[編集]サムライト編集部